物置

書いたものを置く場所です。

一人の男の子のおはなし

あるところにごく普通な、仲のいい夫婦がいました。 二人は愛を育み、一人の子をさすがりました。 夫は喜び、子供に付ける名前を考え夜も眠れぬようで、妻は母になる瞬間を心待ちにしていました。 医師からも、何の問題もない、元気な男の子だと言われていました。

 

そしてその日はやってきました。 難産というわけでもなく、すんなりとことは進むはずでした。しかし看護婦が男の子を抱えた瞬間、母親はなんの前兆もなく息を引き取りました。 父親は嘆き悲しみ、医者に怒りと疑問をぶつけました。医者は全く原因がわからない、急死だとしか答えようがありませんでした。最愛の人を亡くした夫の絶望と憎悪は行き場をなくし、燻り続け、母親の面影のある息子を見るのも嫌になってしまいました。 ついに夫は息子を捨て、身をくらましてしまいました。

 

男の子は一人になりました。

 

様々な施設を転々としながら、一人のまま物を持つように、立つように、しゃべるように、成長していきました。

そして、6歳の頃男の子は施設の何人目かわからない新しい友達と、お外で遊んでいました。

友達はボールでサッカーごっこをひとしきりしたあと、何かを見つけたように突然草むらのそばでしゃがみこみました。 男の子は不思議がって訪ねました。

「どうしたの?」

友達は答えました。

「アリさんだよ!ほら、ここ」

友達は、蟻の巣に棒を突き刺したり、出てきた蟻を踏んだりして遊んでいました。

踏まれた蟻はジタバタと手足を必死に振り続け、もがき苦しみました。下半身を刺された蟻は地べたを這いずりまわり、少しして事切れました。

男の子は、見たこともない遊びを見つけ、友達と一緒になって遊びました。

 

その日は一日中、蟻で遊びました。

 

その日からしばらくし、施設の中で先生達と元気に遊ぶ子供達を見て男の子は気になりました。

男の子の頭の中には、この前の蟻がありました。 男の子は思いました。

「こっちはどうなんだろう?」

 

部屋の壁紙は白から目の冴える赤に変わっていました。

工作の次官で作った絵も、折り紙も、机も、椅子も、全て真っ赤に染まっていました。

男の子の疑問は解決しました。

お腹が潰れた子はもがき苦しみ、血反吐を吐きながら床をのたうち回りました。足をもがれた子は奇声を発しながら泣き叫び、しばらくして動かなくなりました。

男の子は体についた絵の具を洗うためにお風呂に入り、臭いのでお外に出ました。 誰もいない施設には帰りません。

 

男の子は元々一人でした。